毎日持ち歩くものを、全部黒にした。
バッグの中を開けたとき、余計な色が目に入らない。そのためだけに、EDCを黒で揃えた。
墨は黒ではない。それでもHHKBの無刻印墨だけは、黒のルールの外側に置いている。
HHKB Professional Hybridの「墨」は、黒ではない。
正確にはダークグレー、あるいはチャコールに近い色で、純粋な黒とは明確に異なる。それを知っていて使っている。
Midnight Supplyのルールに、「ミッドナイトと名乗るものへの免疫がある」と書いた。
HHKBの墨には、それと似た感覚がある。「墨」という言葉が持つ暗さと静けさが、このキーボードの佇まいと一致している。墨汁の黒は純粋な黒ではなく、深みと湿り気を含んだ暗色だ。このキーボードの色はその言葉に正直だと思う。
キーに文字が印字されていない。
最初は不安があったが、慣れると戻れなくなる感覚がある。印字がなくなると、キーボード全体がシンプルな黒いオブジェクトに見える。文字が並んでいるキーボードと並んでいないキーボードでは、デスクに置いたときの印象が全く違う。
タイピングを視覚でなく指で覚える過程も、道具との関係が深くなる感覚があって悪くない。
静電容量無接点方式の打鍵感は、メカニカルとも一般的なメンブレンとも違う。
押し込んだときの底打ちがなく、一定の深さから先は吸い込まれるように入力が完了する。長時間タイピングしても疲れにくいのは、この底打ちのなさが関係していると思っている。
墨のHHKBをデスクに置くと、デスクマットとの境界が曖昧になる。
完全に黒でないからこそ、主張しすぎない置き物になっている。これが純粋な黒のキーボードだと、逆に目立ちすぎるかもしれない。例外として置いておくことが、結果的にデスクの文脈に合っていた。